昨年6月、夏物の背広のズボンがどれも入らなくなった。前立腺ガンの治療に女性ホルモンを服用しているので、どうしても皮下脂肪が増えてくる。体重の増加は仕方ないものとあきらめていたが、着るものがなくなれば大事件だ。一念発起、ダイエットを始めた。
「カルシウム・ダイエット」という記事を、時々、新聞紙上でみかける。カルシウムには脂肪を分解する性質があるらしい。これがヒントになった。次に、寝る前に食べると太る、とよく言われる。常識的に考えても、そうだろうと納得できる。だが、空腹だと眠れないし、極端な空腹状態で眠るのは身体によくないともいわれる。低脂肪・低カロリー食品で空腹を忘れることはできないか。カルシウムは多くてもよい。そこで、考え出したのが、私にピッタリの”アイラン”もどきの飲料である。
ずっと以前、トルコに駐在していた頃の話。ある夏の日、イスタンブールの街を歩いていて、とても喉が渇いた。生来、下戸の私はチャイハネという喫茶店に入り、チャイ（紅茶）を注文した。現地の飲み物では、チャイが最も無難で、しかも、タダ同然に安い。小さなガラスのコップに入ったチャイを飲みながら、隣りのテーブルをみると、大型のグラスに入ったミルクを美味そうに飲んでいる御仁がいる。私も何だかミルクを飲みたくなって、「アレと同じものを欲しい。」と、ボーイに頼んだ。トルコ語をしらないときは、現物を指差して注文するに限る。
銀色のお盆に載せてボーイが運んできたミルクは、かなり濃いようにみえた。トルコだから、ひょっとすると、山羊のミルクかもしれないと、先ずは、口に含んでみた。
ペッ、ペッ！ 何だ、こりゃ！ 腐っている！と、思った。想像の範囲をはるかに超える味だった。強い酸味が口いっぱいに広がった。
直ぐに、「ガルソン・ベイ」と、ボーイを呼んで、「ブ・ネ？」と、訊いた。とても簡単な表現だが、これだけで、「これは何か？」という意味になる。ボーイは、笑いながら答えた。
「ブ・アイラン。ヨーグルト・トゥル」
つまり、これは「アイラン」で、ヨーグルトだと言っているのだ。
後に学んだところでは、アイランというのは、ヨーグルトを塩水で割った飲み物で、トルコでは非常にポピュラーな飲料なのだ。最初からヨーグルト飲料だと知っていれば決して慌てることはなかった。
それ以来、私は、スッカリ、このアイランにハマってしまった。高級レストランに行っても、ドリンクにはアイランを注文した。
アイランの美味さは塩味にある。これが、私のダイエット飲料の大きなヒントになった。そこで、スーパーから、プレーンヨーグルトと無脂肪牛乳を買ってきて、グラスに入れ、少量の塩を加えて飲んでみた。
なかなかイケル！
懐かしのアイランの味に近い。牛乳とヨーグルトの割合と塩加減を色々とトライしてみて、私なりのレシピを確立した。
ヨーグルトをグラスに下から２ｃｍ程度入れ、これに塩を一つまみ加える。スプーンでよく混ぜておいて、無脂肪牛乳を注ぎグラス一杯にする。
これで、出来上がりである。ヨーグルトも、望むらくは、無脂肪か低脂肪のものがよい。この自作のアイランを腹が減ると飲む。原則、夜8時以降は他のものは、一切、口に入れない。アイランで満腹感は期待できないが、空腹を忘れる効果がある。これを、毎日、続けると、1ヶ月に１ｋｇ程度の減量はた易い。
（2006年４月 記）
