エネルギー・環境セグメント
　中村龍介


　アメリカにいる間に、ぜひ一度『風と共に去りぬ』の舞台になったアトランタへ連れて行って、と長年、妻にせがまれていました。地図を調べるとヒロインのスカーレットが生まれ育った「タラ」という架空の地名が、なぜか本当に載っています。そこが本場に違いないと、喜んで出発しました。
　ところがはるばる着いたタラは大農園はおろか白亜の屋敷の影もない住宅団地です。尋ねて回るとそこはかつて『風と共に』のテーマパークが計画されて、頓挫した所だということが分かりました。がっかりする妻を慰めながら帰る途中、ジョーンズボロという町のレストランに立ち寄ってふと見ると、「マーガレット・ミッチェル記念館」というポスターが貼ってあります。せめてそこへ、と行ってみて驚きました。小さいながらもタラ屋敷のような外観の建物で、出てきたのはヴィヴィアン・リーが扮したスカーレットそっくりの衣装を着けた女性。レット・バトラーのような姿の男性まで現われ、あっけにとられるやらびっくりするやら、妻は大喜びです。記念館だけでなく、その一郭にはミッチェル女史が通った学校や教会も保存されていて、『風と共に去りぬ』が描いた、南部の古き良き時代を彷彿とさせる仕掛けになっていました。私たちは幸運な偶然で訪れることができたのですが、地図にも観光案内書にも、載っていません。世界中にファンの多い名作ゆかりのスポットが、知る人ぞ知るではもったいない！と思わざるを得ませんでした。
　妻は体がすこし不自由なので、そういう日本人が遠路やってきたことが、よほど印象深かったのでしょう。あの「スカーレット・オハラ」からは、毎年、クリスマスカードが届き、わが家のたいせつな友人になっています。