風にそよぐコスモス
（「小さな庭から花便り」より）
９月３日（月）
現在は、阪神大震災で実家も倒壊し草茫々の
土地があるだけ。両親もいないので「帰省」と
いうのには些か抵抗があるが、神戸には親戚が
居てお墓がある。私には大切なホームタウン。
恒例（？）により初日は、先ず、甲子園での
ナイター観戦。次女も私も大のトラキチなので
タイガースが勝てそうな試合を選んで観戦する。
今回の相手はヤクルト。今年タイガースが大きく
勝ち越している相手だ。ゲームはヤクルトの拙い
試合運びもあって、５−２の逆転勝ち。久々の
甲子園を大いに楽しんだ。此処の観客は95％が
タイガースファンだが、年々、応援が上手になる。
統制の取れた応援に参加して声を張り上げると
格好のストレス発散になる。
翌日は朝から住吉霊園にある父母の墓に参った。
今回も妻の末弟の枢（かなめ）くんにアッシー君を
お願いした。東京に較べかなり暑かったが、天気も
よく気持ちのいい朝。例によって墓前で般若心経を
行じたが、最近サボっているのがたたり、途中で
少し詰まってしまった。
夜は、母方の親戚一同と三宮・第一楼で中華料理。
この店は、父の元気なときによく連れてきて貰った
神戸で一、二を争う老舗。
久し振りの懐かしい会話で盛り上がり、東京では
味わえないコクのある料理に胃袋も満足した様子。
帰路は初めて神戸空港から帰った。この空港は、高校時代の友人・山下彰啓君が文字通り心血を注いで建設を推進したもの。彼は、神戸市の企画調整部長から助役になり、次期市長と言われたが、空港の完成を見ることなく前立腺ガンで逝った。神戸空港は、正に、山下君のライフワークとなった。
これについては、エピソードがある。同じ高校の同級生の鴻池よしただ君が国会議員として初当選したとき、鴻池君は「近い将来、文芸春秋誌上に山下神戸市長と鴻池大臣の同級生交歓を実現してみせる。」と豪語した。山下市長はともかく、鴻池大臣を予想するものは誰も居なかったが、小泉政権時代、防災担当の総務大臣になり、大方の予想とは逆になってしまった。
帰省談が長くなってしまったが、病院の妻は特別変ったこともなく、悠々と入浴後の睡眠を楽しんでいた。起こして、神戸の様子を話そうと思ったが、折角の快眠を妨げるのも悪いので次回に回すことにした。
９月４日（火）
夕方、病院を訪問して妻に神戸の様子を報告した。薄目を開けて聞いているようにも見えた。妻は終の棲家として郷里の神戸を望んでいた。神戸は、北は六甲の山、南はチヌの海に囲まれた細長い街。山と海があってこそ自然がある、と常々言っていた。もう帰る機会はないだろうが、せめて神戸の様子だけは聞かせてやりたい。
先日グラスに挿したリンドウとのじ菊の花がそろそろダメになった。捨てようと思って気がついたのだが、ヒマワリの花が一輪加わっていた。末娘の康子がもってきたようだ。勤め先が目白なので康子はあまり病院には来ない。妻の好きな花を覚えていてくれたのが嬉しい。グラスの花は水だけ換えてそのままにしておいた。
９月６日（木）
どうせ来ないだろうと思っていた台風９号がやってきた。関東地方に上陸するようだ。夕方からは風が強くなり、横殴りの雨が降る。東京も暴風圏内に入ってきたらしい。
妻は台風のことなど我関せず、悠々と眠っていた。顔を拭いていると目を開けたので台風のことを話した。妻は、元々、自然災害にはとても敏感で、不時の場合に備えてたくさんの食料や常備品を買い込んでいた。もし意識があれば現在の我が家のストックには大いに不安がるだろう。
病院を出ようとすると婦長に呼び止められた。来週から二人部屋に移ることを了解して欲しいという。差額ベッド料が発生して入院費が跳ね上がるが、この病院の経営方針なので仕方がない。二人部屋に移れば、少し頻繁に花を持っていってやろうと思う。
９月７日（金）ー 台風速報 ー
朝起きてみて驚いた。多摩川がまるで海。下の２枚の写真を見較べてほしい。上が本来の眺め。下が今朝の多摩川。
その代わりというわけではないが、夕方には水は引き始め、素晴らしい夕焼け空が
現れた。
９月９日（日）
朝から素晴らしい天気。ベランダから見ると多摩川越しに遠くの山々がくっきり。中央には富士山も見える。後述するが、昨日、山中湖まで行ったのに富士山はボンヤリかすんでいた。
妻は目を開けて起きていた。枕もとのラジオが鳴っていて、それを聞いているように見えた。話しかけるとこちらに視線を向ける。このところ容態はとても安定していて体調も悪くなさそうだ。
来て欲しいという。昨日、次女と二人で久し振りに
山中湖までドライブした。
Ｆ氏の別荘は湖畔から少し入った山の中にあった。
瀟洒な洋風の造りで、周囲には４〜５軒の別荘がある
だけ。山に囲まれた静かなたたずまいであった。（右）
冬はとても寒いらしく、１階のリビングには大きな
暖炉（ペチカ）が設置されていた。燃料の薪はＦ氏が
自分で作るとのことで、大型のチェーン・ソーや斧を
見せてもらった。此処で生活すれば典型的なカントリー
ライフを楽しむことができそうだ。
長期間は退屈だろうが、１週間程度なら静かな自然の
中で過ごすのも悪くないだろう。今まで別荘には殆んど
興味がなかったが、少し心を動かされた。
夜は、奥さんの心づくしの御馳走に舌鼓を打った。
Ｆ氏邸の直ぐ傍に、「花の都公園」というのがあり、
散歩がてら訪ねてみた。季節的にはコスモス畑が満開の
はずで、大いに期待したが、残念ながら金曜日の台風で
殆んどが倒れていて、花も少なかった。
公園は町営とのことだが、広大な敷地に色々な展示が
配置されている。最大の”売り”は大昔の富士山の噴火に
よる溶岩と周辺の樹海でできた溶岩樹形の洞窟なのだが、
何故か、此処を訪れる人は少ない。
また、大きなドーム型の温室があって、そこでは様々な
花を植え、熱帯植物園風に展示している。丁度、胡蝶蘭が
美しかった。野外には、形の面白い岩や樹木が配置されて
いて、訪れる人の眼を奪う。中心部が空洞になった大木が
あったので、中に入って１枚スナップを撮った。（左）
ゲームが終わると、トラキチからの喜びのメールが寄せられる。中には、巨人ファンからの無念のメールもある。その一つ、宇部のＫ氏からのメールは、下記のようなものだった。
「・・・・・・！」
９月11日（火）
昨日から天気がさえない。秋雨前線の停滞でどんよりした空。時折夕立が降る。妻の体調は外の天気に影響されるはずだが、今日はしっかり目を開いて起きていた。体調も悪くなさそうだ。髪の毛が少し伸びてきたので散髪を頼んでおいた。ただベッドに寝ているだけだが、髪の毛やツメは意外に早く伸びる。
文芸春秋の「トピックス・グローバル」（宇部興産・広告のページ）のコラム執筆を再び始めることになり、取材のため半年振りに会社を訪れた。事務所の様子は以前のままだった。20階の応接室から見下ろす東京湾のパノラマは久し振りに見ると矢張り雄大だ。お台場のビル群を背景にレインボー・ブリッジが格好のアクセントになっている。この景色は東京でも5本の指に入るかもしれない。
９月13日（木）
朝からドンヨリと曇り空。昨日は信じられないような見事な夕焼け空（写真下）だったので、今日は天高い秋の空を期待していたのだが・・・
病室に入ると花瓶のトルコ桔梗が目に付いた。誰が持ってきたのだろう。不思議に思ったが、妻の枕元にメモがあったので分かった。千葉に住む三女の麻子が見舞いに来てくれたらしい。ベッドの下には千葉の梨がたくさん袋に入って置いてあった。
妻は目を開けていた。「麻子がきたようだね。」と話しかけた。恐らく二人の孫も一緒だったろうから、妻に意識があれば孫の話に華が咲くところだ。子供好きの妻は上の孫のナオくんをとても可愛がっていた。自室にはナオくんの写真がところかまわず飾ってあった。だが、下のハルくんは、妻が倒れた後に出来たので、その誕生を知らない。もし意識が戻れば、ハルくんをナオくんとだと思うに違いない。ナオくんは既に小学生。妻の知っている幼子のナオくんはもう居ない。
（昨日の夕焼け雲。雲の権威によると、層積雲というらしい。）
９月15日（土）
台風11号は沖縄をかすめて西の海に去ったが、真夏日をもたらした。昼間は30℃を超える暑さ。妻は空調の効いた病室で熟睡していた。顔を拭いていると薄目を開けたが直ぐに目を閉じた。今日は眠ったままにしておいた。
昨年9月に安倍内閣が誕生したが、1年持たずに首相が辞任。何か裏がありそうだ。仕掛けの張本人と目される麻生幹事長が次期総裁の有力候補と言われていた。が、今日のニュースでは福田氏が本命だと言う。政治の世界はよく分からないが、麻生氏とすればトンビに油揚げをさらわれるような心境だろう。
プロ野球のペナントレースが佳境に入ってきた。昨日、藤川球児が打たれて中日に逆転負け。嫌なムードだったが、今日は浜中のホームランと投手陣の頑張りで中日に雪辱。藤川がこけたらタイガースのＶもない。是非、頑張ってほしい。
９月17日（月）
今日の東京は昼過ぎに３５℃近くまで上がる完全な真夏日。３連休は好天に恵まれたものの、忘れかけた猛暑を思い出させた。
妻は目を開けて起きていた。が、頭の下には水枕があった。随分久し振りのことだ。熱は大したことはないようだし顔色も悪くない。心配はないと思う。今日は、ずっと私の口許を見つめて、こちらの話を聴いているように見えた。
プロ野球は、昨日ドラゴンズに大敗して首位から転落したタイガースが、今日は宿敵・ジャイアンツを破って首位に返り咲き。ＪＦＫの３本柱も安定していた。当分は３つ巴戦が続きそうだが、残り14試合。何とか頑張ってほしい。
９月19日（水）
朝から曇り空で何だかとても蒸し暑い。温度よりも湿度が高く、それほど暑くもないのに汗が出る。お彼岸の入りというのに、そろそろ爽やかな秋の空が現れてもいいのに、と思う。
妻は新しい病室に替わっていた。先日予告があったので二人部屋への転室のことは承知していた。が、同室の患者が男性なので少し驚いた。過去にも男の患者と同室になったことはあるが、そのときは年輩の方で、いつも目を閉じたまま。いうなれば、あまり存在感がなかった。だが、今度は髪は黒々（カツラかもしれない）、目はパッチリ。しかも、その目を大きく開けてこちらの方を睨んでいる。如何にもオトコ・オトコした患者だ。お互いに意識がないので問題はないが、自分の妻がヨソの男と同じ部屋で寝泊りしているというのは、矢張り、あまり気分の良いものではない。妻の容態は水枕も取れて気分もよさそうだったが・・・・
９月21日（金）
今日も真夏日。とてもお彼岸とは思えない。妻は起きていた。時間帯がよくないのか、隣りのベッドの男は相変わらず大きな目を開けてこちらを睨んでいる。この病院では、床擦れを防ぐため定期的に患者の姿勢を変える。夕方の時間帯は、どの患者もドアのほうに向いた姿勢で寝ている。妻のベッドはドア側、男は窓側なので、どうしても部屋に入ると男と目が合う形になる。どうも面白くない。
妻の方は気分がよさそうだ。話しかけるとじっと視線を向けて聞いているようにみえる。こういうときは体調がいいのだろう、と勝手に想像している。折角二人部屋になったので、今度はキレイな花でも持ってきてやろう。
プロ野球は、我がタイガースがヤクルトに完敗。首位から３位に転落した。最近は打線が全く振るわない。上位３チームが0.5ゲーム差で首位を争う混戦状況なので、下位チームに取りこぼしは許されない。この日曜日には神宮球場に応援に行くことにしている。前回も甲子園まで出かけたゲームではヤクルトに圧勝し、10連勝につながった経緯がある。この時は、宇部のトラキチから”福の神”と言われた。今回も福の神になることができればいいのだが・・・・
９月23日（日）
今日は最低の日だった。先ず、大阪からＷ氏来訪の予定がキャンセルになった。彼とは小学校時代からの付き合いで、毎回、神戸に帰省したときに野球観戦に行く甲子園の切符はすべて彼の手配によるもの。今回は、彼を招待して次女も一緒に神宮球場に阪神ーヤクルト戦を観にいこうと2ヶ月も前から計画していた。ところが、直前になって腎盂炎で高熱が出たためキャンセル。
次女と二人で今年最後のプロ野球観戦は悲惨な
結果に終わった。カモにしているヤクルト相手に
連敗。今日は負けることはないだろうと、勇んで
出かけたが２安打の完封負け。相手の石井投手は
７年ぶりの完封だという。タイガースの各打者は
低めのボール球に手を出し、内野ゴロと三振の山。
威勢の良い応援も聞かれず、楽しみにしていた
ワッショイ・コールも一度も出番なく終わった。
唯一の盛り上がりは７回の風船上げ（右）だったが
肝腎の攻撃は、４・５・６番があえなく三者凡退！
三塁側につめかけたたくさんのタイガースファン
には失望感だけが残った。
傷心のまま家に帰ると、何故か顔の奥が痛み出した。悪いことは早く忘れるに限る。抗生物質と鎮痛剤を飲んで早々にベッドにもぐりこんだ。まさに、グルーミー・サンデーだった。
９月25日（火）
妻のことを暫く書かなかったが、その後特に変化はない。今日は起きてはいたが、頭を枕から大きくずらして少し苦しそうな表情だった。顔を拭いてやりながら話しかけると視線を向けて表情も和らいだ。分かっているのかもしれない。時々そんな気がするが、今日もそんな雰囲気だった。
毎週火曜日は文章教室。終わってから、先生のエッセイスト・渡辺弘子さんと最高齢の生徒・三木さん（79）を自宅に招いた。お二人は無類のネコ好きで、我が家のラーに会えるのを楽しみに来られたのだ。が、肝腎のラーはエヤコンの室外機の奥に隠れたまま出てこない。昨日、大学時代の友人・石田氏御夫妻の来訪時、更に夜に四女の康子が来たときも、物陰に潜んで小さくなっていた。普段は我が物顔に走り回る悪戯ネコだが、他人がくると極端に臆病になる。お客様にも失礼だし、何とかならないものかと思う。
ネコもネコだが、我がトラ軍団は、一体、どうしたことか。今日も横浜に敗れて６連敗。しかも守護神・藤川球児が二夜連続の敗戦投手。つい先日、10連勝して首位に立ち、メイク・ドラマ以上の逆転勝利と言われた輝かしい勇姿はどこへ行ってしまったのか。ゴール寸前まで来て失速。いつぞやの高橋尚子のマラソンを思い起こさせる。頑張れ、タイガース！！
９月27日（木）
もうすぐ10月というのに一向に涼しくならない。お陰で今年の紅葉は各地とも相当遅くなるようだ。妻は今日は熟睡していたが、顔色はよく、体調も悪くなさそうだ。二人部屋に移ったので、少し豪華な黄色いバラを持っていった。（カメラを忘れたので紹介できないが・・・）
花を生けると病室が明るくなるように感じる。この病院は、殆んどが妻と同じ植物状態の患者なので、どの病室も物音ひとつ聞こえず、初めて来た見舞い客は異様な感じがするはずだ。病院側も少し部屋を飾ることに賛同してもらいたいと思う。
ところで、思い出すのも忌まわしいが、我がタイガースは今日も中日に敗れ８連敗。長いトンネルに入ったきり抜けられない。夜は不在が多いので、毎回、ビデオ録画していくのだが、負け試合を見る気にはなれず、このところビデオを再生する機会がない。残り試合も少なくなったというのに、このまま負け続ければ３位の座すら危うくなりそうだ。
９月29日（土）
昨日まで残暑が続いたが、今日は朝から冷たい雨。気温差は１０℃とのこと。漸く秋の到来らしい。昨夜は、ユーモアスピーチの会があり、11人分のカレーを作って持っていった。会では、私のカレーは「美味しいカレー」ということになっているので、煮込みも十分に時間をかけて作った。皆さんに好評を頂いたので一安心。
帰宅してからは、会の報告をホームページにまとめなければならない。深夜までかかって何とか完成。→月報をみる
お陰で今朝はゆっくり眠った。病院の妻も悠々と眠っていたが、声を掛けると目を開いた。同行の次女が顔を拭いている間、じっと我々の話を聞いているようだった。今朝、アメリカの長女から初めて電話を貰ったので、その話を伝えた。家族も殆んどバラバラになってしまい、全員がそろうこともなくなった。妻には折に触れ家族の動静を伝えてやろうと思う。
９月30日（日）
今日は私の67歳の誕生日だが、生憎、朝から雨。
誕生日には、例年、家でケーキにローソクを立て、
ささやかなパーティをやるのだが、今日は些か様子が
異なった。
Ｋ女がやる恵比寿の移動カフェで、20歳年長の
Ｋ氏と合同パーティ。Ｋ氏と私は、偶々、誕生日が
同じ。恵比寿のマンションに一人住まいのＫ氏を
誘い出して、今回の催しとなった。これにＦ女も
参加して、若い女性好きのＫ氏は大喜び。写真の
ように年寄り二人が他愛なく喜んでいる。ケーキの
上のロウソクだが、二人合わせた年齢になっている。
しかも、私の早とちりで１歳ずつ多い。実際は154歳
だが、連絡ミスで156歳になってしまった。もう一度
来年使えると提案したら、Ｋ氏曰く、「わしゃ、生き
とるかどうか分からんで〜！」
当初、150本ものロウソクをケーキの上に立てられるだろうかと心配したが、数字のロウソクとは恐れ入った。
